Acerca de
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第4回
誰よりも、考え続ける
こうしろうさん (29) FtM
(全4回)
2014年からkamenotsuno.comを開設し、自身の経験に基づいた多くの発信をしてきたこうしろう(@Ksr_5463_)さん。大学卒業後は、国際協力のためタイ・チェンライ県に。帰国されてからは、会社員として勤務されているユニークな経歴の持ち主です。自分の人生を主体的に生きる事を胸に、彼はどのような社会人人生を歩んで来たのか。その裏には、幼い頃から考えて続けてきた「国際協力」への情熱と何事にも真摯に向き合う彼の誠実な道のりがありました。
01 - 1 そもそも就活出来るんだっけ?
- 「正規の就活」から逃げ出した
- 1社だけのエントリー
01 - 2 トランスを進めるよりも大切なこと
- 国際協力のためタイ・チェンライへ
- 寛容性のタイ・日本におけるパス度
01 - 3 2枚の履歴書
- 就活アゲイン
- やっぱり嘘がつけない!
01 - 4 カミングアウトはプレゼンテーション
- 思ったよりも大丈夫
- その名の意味
第四回 カミングアウトはプレゼンテーション
【就活アゲイン 】
現在の会社では、入社して一年くらいはカミングアウトをしなかった。
「勤務するまで知らなかったんですが、結構LGBTフレンドリーな会社だったんです。それで、徐々に、という感じですかね」
元々、社内にLGBTアライのネットワークがあり、現在はそこに所属している。
「現在は、会社での入社研修を担当し、ワークショップをやったりしています。なので、そこにいた方は、自然と知っているという感じです。新人の子は、全然知ってますね」
通称名で勤務し、もちろん名刺もその名で作成してもらった。お手洗いも男性用を使用し、懸念も全くない。
彼は、それら全てを戦略的に勝ち取った。
自分の居場所を、自分で作った。
【その名の意味】
最後に「僕自身はトランスが大学時代に終わらなかった。(就活に)間に合わなかったと言うことです」と言った彼に、就活の際のカミングアウトを視野に入れているの方々へのアドバイスを聞いてみた。
自身の考えを整理するように、目を固く閉じてから、彼は丁寧にこう話してくれた。
「これは、就活でもプライベートでも同じなのですが、まず、自分が説明できないことを相手にわかってもらえるわけがないと言うことです。良い意味でも悪い意味でも相手に期待しない。それから、わかってくれない相手も自分の人格も否定してはいけない。責めるべきは、準備をしなかった自分です。」
建設的じゃないでしょ、と彼は真っ直ぐな目でこちらを見た。
「どうしても性別のことになると個人的な話だから、と雑談にしがち。そうじゃなくて、プレゼンテーションが必要なんです。感情のままにカミングアウトせず、客観的な視点を持つべきです。何を言ったら良いのか、決めておく。準備をして、数を踏んで、冷静に対処することが必要だと思います。」
でも、きっと「感情的なカミングアウト」をしたい人もいないのでは?と問うと
「場数を踏んで、ですね。場数を踏めば、カミングアウトも必ず上手くなる」
と、淀みない答えが返ってきた。彼は、少し茶目っ気のある口調で続けた。
「最初は本当に大変なんです。カミングアウトしようと決めて、友達を呼び出しておきながら、何十分と喋り出さないとか(笑)みんな経験していると思います。就職活動のカミングアウトもそれと変わらないんですよ。」
「僕の場合、団体に所属していた時、本当に色々な人にカミングアウトしなければなりませんでした。若い人もすごいおじさんも、いろんな年代のいろんな国と地域の人たちです。けれども、回数を重ねると冷静に対処出来るようになります。見当違いの質問が来たり、思ったような反応を得られない場合もありますが、それは自分の説明が下手なだけ。幸運だっただけかもしれませんが、僕個人を否定する人には会ったことはありません」
そして、カミングアウトを視野に入れているけれども、それをすることで、会社側に過剰な要求をしている、面倒な奴だと思われたくない、と懸念する人々に対しても、このようなアドバイスを送ってくれた。
「プレゼンテーションと言うのは、相手にどうなって欲しいのか、伝えることです。告白だけされて、その後どうして欲しいか伝えなければ、相手もどうしたら良いのか分からない。next actionを提示することが大事なんです。それが会社に悪いと言うならば、長期的に考えて欲しいです。会社と自分、お互いにとって何がwin-winなのか。プレゼンテーションをせずに、自分が我慢して我慢して、突然会社を辞めるより、プレゼンテーションをして、長期的に就業した方が会社にとっては良いでしょう。」
いつの時代も同じように、これからも人類が存続する限り、一定数のFtM・FtXは必ず生まれる。
少なくとも彼がカミングアウトをした会社は、マイノリティの雇用に関して考える機会を持った。
そのタイミングを誰が作るのか、それは過剰な要求などではなく、会社側に大きなメリットがあるように思える。
彼のこれからの夢は、タイにいた時に貢献出来なかった事を日本で成長した自分で還元することと、自分と同じ境遇の人にキャリア選択の方法を提示することだ。
「FtMの多くは、キャリア選択で損をしてしまっていて、キャリアが積み上げられないんです。「男性として働ければなんでも良い」と言う今の状態をなんとか「普通の就活生・転職組と同じことで悩む」状態に持っていきたい。悩みはじめのスタートラインを揃えてあげたいんです」
彼は、両親から「公」と付く名をもらっている。
それは、「人に愛されるように、そして人や社会の役に立つように」との意味を込められて付けられたものだ。
その名の通りの人だった。