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Acerca de

 02 

​ 第1回 

​ 一人で生きていける道を模索した 

  TAI さん(35) FtM  

​ (全4回) 

熊本生まれのTAIさん35歳。

性別違和を感じ始めたのは中学生の時。苦悩しながらも大学卒業後から、料理人を志し、修行を積むこと10年。現在は、埋没のFtMとして九州の某所でイタリアンバルを開いていらっしゃいます。コロナの影響を受けながらも、自分の考える料理を出す日々です。過去を振り返るのも久しぶりだと、はにかみながらも、その軌跡を語ってくださいました。

  02 - 1 普通という呪い 
   -  料理人の勲章 
   -  呪いの言葉  

​ 第一回 普通という呪い 

女性を好きになった頃から、

最初はレズビアンだと思い、気持ちを隠して生きてきたTAIさん。

まだ性同一性障害という言葉があまり認知されておらず、

その存在を知ったのは高校生になってからでした。

自分がそうであると分かった後も、

それに向き合う方法が分からぬまま、

みんなと同じように大学へ行き就職するも、

職場での無意識の内に押し付けられる女性性に耐え切れなくなり

一人で生きていく方法を模索し始めました。

【料理人の勲章】​

ポツリポツリと静かにに話すTAIさん。

話し方とは対照的に、半袖から覗く腕は筋張っていて、ところどころに傷が見える。

こちらの様子に気がつくと、左右の腕を並べて見せてくれた。

 

 

「右腕の方が随分太いでしょう。料理人はみんなこうなんです。鍋ばかり振るっているとこうなるんです。」

 

 

傷だらけですね、と言うと、

「恥ずかしい話ですね。修行中の証拠です。でも、勲章でもあると言うか、」

はっきりとした口調で途中まで言うと、続きを濁すようにコーヒーを啜った。

「就職ね、どうでしょう。してない、と言うのが正解な気がします。私の場合は、一人で生きていくための手段であって、仕事をしている、ましてや選ぶと言う感覚は全くなかったです」

「参考にならないと思います」

と言う幾度も言うTAIさんに、その判断は読者に任せましょうかと返すと、遠慮がちに話し出してくれた。

【呪いの言葉】

「中学生の時、初恋が女性の先輩だったんです。怖くなりました。自分は普通じゃないって。それが始まりですかね」

 

まだ、性同一性障害という言葉も認知されていない時代で、初めてその言葉を知ったのは偶然見たテレビだった。

「これだ、という思いはあったのですが、それだからどうできるのかが分からなくて、考えたくもなくて、必死に社会に適応できるようそれを隠すように生きてきました。」

 

変わっていく身体、精神、環境。いつも「普通の女子」と比べる日々。違いが見つかる度に落ち込んだ。

「自分はおかしくない。普通だ。」

必死でそう思い込もうとした。

どうして、そこまで追い詰められたのですか、と問うと、何かをぐっと堪えるように答えてくれた。

「今の華やかなネットの世界に触れているFtMだと想像がつかないかもしれませんね。当時1990年代の九州の片田舎の話です。自分の性別違和に気がついた時、真っ先に思い浮かんだのは、母親の顔でした。彼女がすごい形相で自分を嫌悪する姿が、まぶたの裏に浮かんだからです。」

そう語るTAIさんはゴツゴツした力強い手で、包み込むように固くコップを握った。

「断っておきますが、彼女は田舎の普通の母親です。毎日、帰りを待っていて、世話を焼いてくれて、子供の成長を人生の楽しみにしている人。でも、彼女を含め、少なくとも、当時の私の周りには、ゲイやレズビアンなんて単語も知らないし、知っていても「そんなことはどこかの異国の話」と言うくらいの価値観しかありませんでした。自分の娘がそんなことになっても、絶対に信じない。信じるどころか、ないものにしたでしょうね」

 

「共学で、大学では一度だけ男とも付き合いました。友達みたいでしたけどね。

周りが彼氏の話ばかりして、いない事が普通じゃないみたいな雰囲気でした。彼と付き合うと言ったとき、友達は良かったとなんだか安堵していました。」

 

 

当時、付き合っていた男性が建築関係の仕事をしていたので、その繋がりで就職先は不動産会社を選んだ。

 

 

「普通に付き合って、普通に就職、自分は普通だ。

普通普通って、自分にかけた呪いの言葉みたいですよね。」

 

​「彼と付き合っていた頃のことを、ぼんやりとしか思い出せないんです。すみません、思い出したくない、と言うか」

 

過去を振り返り無理矢理に微笑むTAIさんに、断りを入れると

「でも、感謝しています。本当です」

​と、まっすぐに目を見て、言った。

正規の就活から逃げ出した

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