Acerca de
01
第2回
誰よりも、考え続ける
こうしろうさん (29) FtM
(全4回)
2014年からkamenotsuno.comを開設し、自身の経験に基づいた多くの発信をしてきたこうしろう(@Ksr_5463_)さん。大学卒業後は、国際協力のためタイ・チェンライ県に。帰国されてからは、会社員として勤務されているユニークな経歴の持ち主です。自分の人生を主体的に生きる事を胸に、彼はどのような社会人人生を歩んで来たのか。その裏には、幼い頃から考えて続けてきた「国際協力」への情熱と何事にも真摯に向き合う彼の誠実な道のりがありました。
01 - 1 そもそも就活出来るんだっけ?
- 「正規の就活」から逃げ出した
- 1社だけのエントリー
01 - 2 トランスを進めるよりも大切なこと
- 国際協力のためタイ・チェンライへ
- 寛容性のタイ・日本におけるパス度
01 - 3 2枚の履歴書
- 就活アゲイン
- やっぱり嘘がつけない!
01 - 4 カミングアウトはプレゼンテーション
- 思ったよりも大丈夫
- その名の意味
第二回 トランスを進めるよりも大切なこと
【国際協力のためタイへ 】
団体には、2015年度の春募集に応募して、一次を通過、二次では合格ではなくまずは登録となり、そこから合格になった。そこで、結核の研究や結核患者支援を行うタイ・チェンライに配属されることになった。
団体には、女性としてエントリーしていた。
ホルモン注射はその時すでに開始していたが、これを機に休止した。
「電話で問い合わせをしました。自身がGIDであることとホルモン注射の投与をしていることを伝えました」
淡々とした口調で続ける。
「前例がなかったようなので、(ホルモン注射を)やめました。私にとっては、団体に行く方が、男性化を進めるよりも大切でした」
どうしてそのような決断が出来たのですか、と問うた。治療を急ぐTransgenderは多い。その焦りは、インターネットの文字の上であっても、瞼を閉じてしまうような切迫感や怒り、不安、諦め、様々な葛藤がある。
彼は、ゆっくりと首を傾げて、のんびりと言った。
「なんで、でしょうかねぇ。。。」
答えが出ない場合も急がないのが、彼なのだと思った。言葉、と言うものを大切に扱う人なのだ。
「『男性になる』ことだけを考えて、『男性になったあと』のことを考えない人のことを考えたからですかね。。。」
少し思案したあと、きっぱりと続けた。
「考える余地がないくらい悩むのは分かるんです。でも、そこに振り回されてしまったら、本末転倒と言うか。。。だって、私は、男になるために生まれてきたわけじゃないですから。『男になることが目的』なのではなく、『男性になって何がしたいのか』が大切なのではないか、と考えていました。」
「でも、この時期は『女性として生きづらいだけなのではないかな』と言う気持ちから抜け出せていたわけではありませんでしたし、トランスに対して慎重だったのもあると思います。」
「タイの団体内では、お手洗いは男性用を使用していました。実際は、忙しかったので、性別の問題を意識する余裕はなかったんです。第一、僕が行った場所は日本人なんて誰もいないんです。だから、男とか女とかよりも、「日本人」と言う扱いでした。だから、性別に関して、物凄く困ったり不快なことはありませんでした」
【タイにおける寛容性の実際と
日本におけるパス度の重要】
続けて、興味深い話もしてくれた。
「日本にいると、FtMなんかは男性として扱われるんですよね。きちんとカテゴライズしてその中に入れようと言うか。「男性にならんとしている人を受け入れよう」みたいな。ただ、タイにいると「女性だったけれど、今は男性なんだよね」と言う感覚が強かったです。「そのまま」を受け入れようとするんですよね。田舎だろうが都会だろうが、お年寄りでも、まぁ、タイの人は適当ですからね(笑)」
「だから、日本では、パス度と言うのがかなり重要です。見かけが女性の人を男性として扱うのは難しい、と言う風潮です。けれど、タイではTOM BOYやいわゆる、手術していない人にもきちんと市民権があると言うような面があったように思います」
そして、こうも続けてくれた。
「タイには観光立国としての寛容さもありますが、その一方で、非常に強い縦社会が形成されています。親の影響力がとても強いです。だから、男性が「今は(男性)の恋人がいるけれど、(女性の)許嫁もいるんだよね」とあっけらかんと話していたりします。それに、FtMの人の中には、「過去の自分のことは見てくれなくて良い、男性として取り扱って欲しい」と言う方もいらっしゃるでしょうから、どちらが良いと言う話ではないですよね」
物事を他方向から観察して、メリットもデメリットも伝えてくれる。
彼の真摯な受け答えが印象的だった。