• Natio Miyakawa

私が生涯で出会った最もモテる男は意図せずに他人を救う回数の多い男だった

更新日:5月1日



えいちゃんは私の学生時代の知り合いの一人で、最も「人間にモテる人」である。どんな集団に入っても、高好感度を獲得するバランス感覚を持っていて、それに対してあまりコストを払わずに生きている奇跡的な存在。えいちゃんを見ていると正しくあろうと人格者になるよりも、見栄を張らず、正直で素直に生きていく方がよっぽど人に好かれると思い知らされる。

建築学科なのに、芸大にでもいそうな雰囲気で、ちょっとだらしない格好をしており、誰かと目が合うと声に出さずに目を細め、少しだけ笑うような人だ。しょっちゅう海外をふらふらしていて、突然学校に現れては次の瞬間には連絡が取れないような状態になった。千鳥の大吾さんをちょっと格好良くして、柔和にした感じをイメージしてもらうと良いかもしれない。

えいちゃんはモテるが故に、そこそこ周囲の女性を食い散らかしていたが、本人もそれをどこ吹く風としている気質があって、悪い評判が出ることがなく、むしろ、食い散らかされた女性が「私は無理だったな。でも、えいちゃんなら仕方ないかも」と少し悲しげで、でも美しい横顔になってしまうため、私からは魔法使いか何かのように見えていた。

 


初めての会話のことはよく覚えている。「宮川さんさぁ、タイ行ったことある?」と突然言われ、バンコクとチェンマイならあると答えると「この間ね、タイですっごい可愛い女の子とやっちゃったの。でもね、服脱いだら、ぐんって。ぐんって!俺よりでかいのが出てきたの。」とこちらが狼狽するレベルのナチュラルさで、どでかい下ネタをぶっ込んできた。要するに隠部が痛いらしく、性病にかかっているかもしれないと懸念しているようだった。保健所でいくつか性病検査が出来るはずだと答えると、「明後日、デートするから、それまでに治したい!」と妙に引き締まった、ゴールデンカムイに出てきそうな顔つきで宣言したので、おそらく検査にも投薬にも時間がかかるだろうから、数週間先送りにするようにアドバイスをして、その場は終わった。

それから数日後、えいちゃんのラボのデスクの前を通りかかると、デスクトップの端に付箋紙で「◯日 保健所 性病検査」と書いてある付箋紙が堂々と貼ってあり、笑ってしまった記憶がある。鉛筆で書かれたえいちゃんの字は小さくて丸っこく、小動物のようにコロコロと付箋紙の中央に並んでいた。


 

私がえいちゃんの凄さを目の当たりにした事件がある。

学生ばかりの飲み会の最中に、男性だけが「好きな芸能人のタイプ」で大盛り上がりした。その話題についていける女性がおらず、置いてきぼりになった。参加している女性が、隕石を磨きすぎて腱鞘炎になったり、ピペットマン片手に実験台で立ったまま眠ることが出来るタイプの人々だったからだ。(私は牛の肛門に手を入れるのがうまいと褒められたことがある。)

しかし、悲しい哉、同じ穴の狢ほど程度の低い価値観がが横行し、対立構造を呈してしまう。この場合、男性側が女性芸能人を褒めることによって、意図せずに女性全体を卑下してしまい、女性側のほとんどが「オメェが言うなよ」的な毒を抱えたまま発することなく、良くない雰囲気で飲み会が進行した。それに気がつかない男性が「あ、ごめんね~こっちで盛り上がっちゃって」なとど発言し、さらに白けた空気が漂った。

そんな時に、えいちゃんはフラッと現れた。相変わらず、切り損ねた髪をそのままに、妙な柄のシャツを着て、指紋だらけのマルめがねの柄を戻しながら「俺も混ぜて~」と言った。どんなタイプの女性が聞かれると、えいちゃんは手のひらで髭を撫でながら

「気が強くて、エロい女」

とちょっと照れながら言った。

私はこれほどの破壊力のある言葉を知らない。

一同は、なにやらすごい事を聞いたかのような中学生になっていたが、そのうちの「実は俺は結構、色々言われる方が楽で好きかも」「私は色々言えないタイプだから汲み取ってくれる人がいい」と話題が個人的なものになり、攻撃的な雰囲気は無くなった。



自分達は性別に関係なく生きていきたい。

けれども、時折、それがひどく悪い事のように思えるーーーー。

そうやって、一部の人間はは少しずつ侵食されてきた。

今回の場合に限って言えば、えいちゃんはそれを少し肯定してくれた。間接的にもちろん意図的なものではないけれど、フラットな目線で物事を見るだけでジェンダーには関係ない世界が一瞬だけ姿を表す。



 

その後、えいちゃんはインフラ系上場企業にさっさと就職を決め、髪を切りスーツで仕事をしている。結婚して子供ができて、順調に出世し、ちょっと太った。

数年前、初めてえいちゃんの家族と会った時、学生時代の下世話な話題を口に出せるわけもなく、ただ誉めちぎっていたら「俺がタイで性病に罹った時に、一番最初に相談した人」とパートナーに紹介され、正直にも程があると思った。えいちゃんは皆が目を点にしているのを尻目に「性病って何?」と聞く子供たちの頭を撫でて「早く大きくなって。」と相変わらず目尻に皺を作って笑った。


閲覧数:46回0件のコメント

最新記事

すべて表示
  • Instagram
  • インスタグラム