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執筆者の写真Natio Miyakawa

ドブネズミみたいに美しくなりたい





数年前に、実の姉夫婦と何でもない路上で出くわした。

アスファルトから湯気が立って、足元が歪んで見えるくらい熱い日だった。



姉は当時40手前くらいだったと思うが、籐の柄がついた黒い日傘を差してリネンの飾り気のないワンピースを着ており、その横を姉の夫が歩いていた。

二人は何かを話す様子もなく、ただ歩いていただけなのだけれど、陽炎みたいな姉もその姿に優しい眼差しを向ける兄も非常に健康的で色っぽい感じがした。



私の姉はいわゆる「わかりやすくモテそうな女性」ではない。

デザイナー系と言うのかアート系というのか、一部のニッチな市場からはえらくモテていたが、わかりやすい性的な部分からは人一倍遠いところにいた。(こっち系


そんな姉がパートナーと深い信頼関係を築いていること、そして、姉がエロスを持っているという基本的な事実を私は唐突に、しかもかなり写実的な光景として知ることになった。




 


初めての勤め先では、毎朝8時頃になると数件の業者が弁当の注文を取りに来てくれていて、そのうち、黄色いバンダナをしたおばさんが持ってきてくれる幕の内弁当が私は好きだった。




そんなお弁当屋さんは当時古希は過ぎていたと思うのだが、シルバーのミニバンを運転して校内を動き回っており、巡回中の警備員さんから注意されたり、気のいい生徒に心配されたりしながら、でも、水仕事で膨れ上がった手でバンダナを直しながら、ニコニコ笑う彼女が上品で好きだった。



 


初めての忘年会の日。

私は何だか疲弊していた。

新人は芸をすることになっていたが、何もない芸がない私は同僚とストッキング相撲をした。お前ごときが持っていいプライドなんかないし、この場でそれを捨てれなければ未来がないと言われることは、わかっていても日本の習慣とやらを呪うには十分な理由だと思う。



二次会に移動する頃には辺りは墨色になっていた。住宅街の細い路地に暖かい色の電灯が灯っている。

目の前のアパートから人影がのび、姿を表した。

お弁当屋さんと警備員さんだった。



お弁当屋さんはバンダナをしていなかった。

髪が濡れていて、根元には染め損ねているのか、白い髪が随分と伸びていた。

そして、戸惑いがない様子で、警備員さんのポロシャツの襟を直した。



そのときも、私は何だかいいなと思った。

お弁当屋さんの瞳も髪も空気も何もかもがビシャビシャで本当によかった。

私は二次会の店に少し遅れた。


 


思い出の鮮度が褪せないように、忘れたくない光景は時々思い出す事にしているが、写真には映らない美しさは自意識の塊で、とても恥ずかしい気持ちになる。

だから、私はよく寝る前に布団を被って、ジタバタしたり、眠れなくなったりして、今ではそんな私を娘は全く心配しないのだった。


▲家族でも「なんかいいよな」て光景に出会うことは結構ありません?

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