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​毎週日曜日更新

一節のお裾分け

第8節

人は他者から「見られる」ことで初めて存在できるのよ。

【喧嘩上等 うさぎとマツコの往復書簡 中村うさぎ・マツコデラックス著】

最近東京ゲゲゲイのマイキーさんと、中村うさぎさんの対談動画を見た。

https://www.youtube.com/watch?v=aWE6w92e2O0&t=2s

中村うさぎさんのエッセイ本は昔から楽しく読んでいて、そう言えば大病をされたあとどうしているのだろうと思って検索したところ、最近の様子を意外なところで見ることができたのだった。

中村うさぎさんには、北九州出身であることと(私が北九州の大学を出ている)、誕生日が同じであることから勝手に縁を感じている。買い物依存症になって借金をしながらブランド服を買いまくったり、ホストに本気ではまったり、デリヘルになったり、ゲイ男性と恋愛を伴わない結婚をしたりと、なかなかできない経験を総ナメにしているような人生を、ある種冷徹なまでに淡々と客観視して綴られたエッセイは非常に面白い。

うさぎとマツコの往復書簡は、そんな中村うさぎさんとマツコ・デラックスさんとの共著で、タイトルの通りお互いに手紙を書きあうような形で進んでいく。第1回で紹介したオアシズの『不細工な友情』と同じ形式である。

対談動画を見てうさぎさんのことが懐かしくなり、改めて読み返してみた。もう随分前に読んだので内容も細かいところまでは忘れていたのだが、改めて興味深い内容を見つけたので紹介したい。


話は、人間はなぜ生きるのか、思考するのか?というマツコさん曰く「哲学中学生」的な話になる。そしてうさぎさんが「こないだ、面白い話を聞いたわ。」と切り出す。


生物は原始の海の中のアメーバみたいな生き物から進化したが、光の届かない深海に暮らしている最初の頃は「目」がなかった。

ところが進化するにつれて段々と陸に近づいてきて、光を感知する必要が出てきたので「目」という器官を獲得する。そして、この「目」の獲得が生物に爆発的な進化を促したのだという。

彼らは初めは「目」を「見る」ことにしか使っていなかった。

しかし、彼らはある時気がつく。
自分が相手を見ているということは、相手も自分を見ているということに。ここで初めて「見る存在」から「見られる存在」になり、「自意識」が誕生した。

自身が「見られる存在」であることを知った生物は、一気に多様化していく。生殖のために、敵の目をくらませるために、あるいは餌を引きつけるために。そしてそれだけではなく、あらゆる行動様式や生活形態も進化する。生物は「思考する」ようになったのだ。

自意識の獲得により、「知能」が「知性」へと進化したのである。
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もっぱら「見る」だけの存在だった頃、生物には「他者」しかいなかった。でも、自分が「見られる」ことを知った時、初めて「自己」を獲得した。すなわち、「自己の発見」こそが思考を促し「知性の発生」へと繋がったわけ。



人は他者から「見られる」ことで初めて存在できるのよ。もちろん、誰にも見られなくたって存在はしてるはずなんだけど、本人の自意識の中では他者の承認が存在に不可欠なの。

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この話を聞いて、もちろん性別のこと以外にも思うことはたくさんあるのだが、FTMとして思ってしまうのはパス度の話である。

僕は、それなりにパス度には気を遣うべきだと考えている。もちろん優しい人は「パス度なんかじゃなくて、自分が男だと思っているならそれが尊重されるべき」と言ってくださるが、それでもやはりパス度は気にする。「どう見ても女に見える人を男として扱うのは難しい」ということを分かっているからだ。

その昔、僕はバックパッカー旅行をしていた。旅先で出会った人には、打ち解けた後に初めて女だと分かることもあったし、初めから女だと思われていることもあった。

アフリカを旅行しているときに、日本人の男性ばかりの一行の中に混ざったことがある。そのときに自分のことを打ち明けた。そして言われた。

「うーん、でも女の子しにか見えないからな」

4人いた中の、誰に言われたのかも忘れてしまったけど、この言葉は僕が「他者」から「見られる」事によって「自己」の立ち位置を痛感した出来事の一つだった。


人々の、意識の間をすり抜けていくときに、「男」とカテゴライズされるために僕らは奮闘する。自意識過剰と思われるかも知れない。もちろん気にしすぎるのも良くないが、僕にとってパス度を上げるのは「身だしなみ」みたいなものなのだ。パス度で差別をするのは良くないことだが、それでも僕らは一所懸命に擬態する。

FTMは他者から「男」と認識されることで、初めて男に近付ける。そんな気がするのは、僕だけなのだろうか。

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こうしろう

会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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