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​毎週日曜日更新

一節のお裾分け

第50節

この世はカレーです。大きい大きい鍋に入ったカレーです。

【ブッダも笑う仏教のはなし】
笑い飯 哲夫著

今回のお裾分けは、お笑い芸人の笑い飯の哲夫さんの『ブッダも笑う仏教のはなし』からの引用だ。実家に帰省していて、久しぶりにこの本を手に取った。笑い飯の哲夫さんといえば2010年のM-1グランプリを制覇したお笑い芸人さんだが、お笑い以外にも小・中学生向けの塾を経営、農家、花火解説など様々なジャンルで活躍されており、東大で仏教講座を開講しているそうだ。

この仏教の本を見つけてすぐに、私はこの本から教わったことを思い出した。

「この世はカレーです。大きい大きい鍋に入ったカレーです。」

そうだ、私はかつてこの言葉に救われたのだった。

この本を読んだのは確か23歳の頃だったと思う。その時私は失恋をして、しかも自分の男友だちがその人と付き合うことになり、なんだか複雑な気持ちでいたのだった。自分の中にあるモヤモヤや失恋の辛さを忘れることも昇華することもできずに持て余していた。

そんなときにこの本に出会った。仏教に関する本を何冊か読んでいたこともあって、お笑い芸人さんが書く仏教の本って面白そうだなと思って買ったのだった。そしてその「面白そうセンサー」は見事当たっており、仏教のことを更に面白く学ぶことができた。

カレーの話をまとめてみるとこうだ。まず、仏教の中ではこの世に実体のあるものなどなく、それ個体として本当に存在するものはない。もしそうであるならば赤い苺はずっと赤い苺のまま。でも実際にはそうではなくて、赤い苺はいつか腐って汚い苺にもなるし、花は枯れて散っていくし、人もハゲたりする。この世のすべてのものは移ろいゆく。つまりこれが「諸行無常」ということ。

そしてものが内包している実体のことを「我」という。「我」は「ワレ」つまり自分ということではなく、万物それぞれの実体という意味らしい。実体がないことを「無我」といい、すべてのものには実体がないということを「諸法無我」という。

この「諸行無常」と「諸法無我」を表現しているのが「この世はカレー」という話である。大きな大きな鍋にカレーが入っていて、そこに小さな小さなおたまがカレーをすくいにいく。そして各々のおたまにカレーが溜まる。その一つのおたまにたまたま溜まったのが一匹のコオロギ、その他のおたまにたまたま溜まったのが体育館の傘立てに放置している傘、そしてまた別のおたまにたまたま溜まったのが私やこれを読んでいるあなたや、この文章や、この文章を書いているパソコンということである。これが仏教で言うところの「全」と「個」であり、大きな鍋のなかのカレーは「全」、おたまに溜まったカレーは「個」というのだ。

私はこの表現がなんだかしっくり来た。その時の私の悲しい気持ちもやりきれない気持ちも、私という人間も、私の友達も、私が好きだった人も、「個」のように見えているけれど、すべては同じ「全」の世界の中にあり繋がっているのだと思った。そう思えば、私という「個」が、目に見えて起こる現象としてはもうこれからあまり関わることはないであろう、私の好きだった人という「個」とも、カレーの鍋の中で繋がっていることになる。

全てはつながっている。色即是空、空即是色。だったら良いのではないか。隣にいられなくても、離れてしまっても、今後話すことはなくても繋がっていて、もしかしたら私の頑張りがバタフライ・エフェクトのように遠く離れた彼女に届くことだってあるかもしれない。誰も気が付かなくても、きっと繋がっているってそういうことだろう。当時の私は少なくともそう解釈して、気持ちが楽になったのだった。

話は少し変わって私はスパイスからカレーを作ることが好きだ。ストレスが溜まると、異様にカレーが作りたくなる。食べたいというよりは、作りたいのだ。そんなわけでカレー作りは趣味の一つであり、「カメラマン・クリエイター・カレーをスパイスから作る男」という「令和の付き合ってはいけない男、3C」に該当してしまうのである。

カレーをルーを使わずにスパイスから作ると、「個」が「全」であり「全」が「個」であることをより感じられる。玉ねぎが飴色に変わって、トマトがどろどろになって形を失い、牛乳やヨーグルトが入っているとは思えないような色になり、ターメリックがすべてを黄色く染めていく。私がスパイスからカレーを作るときに精神が安定するように感じるのは、無心になりながらも「諸行無常」と「諸法無我」の仏教の世界を深めのフライパンの中に見出しているからかもしれない。

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こうしろう

会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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