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​毎週日曜日更新

一節のお裾分け

第47節

シロクマがハワイより北極で生きる方を選んだからといって、だれがシロクマを責めますか

【西の魔女が死んだ】
梨木香歩著

今回のお裾分けは梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』からの引用だ。梨木香歩さんの本は以前の『エンジェルエンジェルエンジェル』の会でも紹介している。西の魔女が死んだは映画化もされており、梨木さんの本の中でもかなり有名なので、読んだことがある人も多いかもしれない。主人公、お母さん、おばあちゃんが主な登場人物であるという点で、西の魔女が死んだとエンジェルエンジェルエンジェルは共通している。

中学校に上がったばかりのまいは、周りとうまく馴染めずに不登校になってしまう。そこでまいはおばあちゃんの家でしばらく過ごすことになる。まいのおばあちゃんはイギリス人で、英語の先生をしていた。日本で理科の先生をしていたおじいちゃんと知り合い、結婚してそのまま日本で暮らしているのだった。

まいはおばあちゃんのことが大好きで、尊敬していた。おばあちゃんのことを「西の魔女」と呼びはじめたのはお母さんだった。お母さんは「あの人は本当に魔女なのよ」と言い、まいもそれが確かにそうだと感じるような事が多くあった。そしておばあちゃん自身も、魔女の力のことをまいに話してくれていた。

おばあちゃんの家は自然に囲まれており、学校にいかない間のまいは山を散策したり、野いちごを摘む手伝いをしながら、自分で学校の勉強もして過ごしていた。そして「魔女修行」もしていた。その一方でまいは、ちゃんと学校に戻らないといけないという気持ちがあり、どうしようかと考えていた。

そんなまいにおばあちゃんがかけたのが、有名なセリフである。

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自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。

サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか。

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結局まいは学校に戻るのだが、この言葉に納得させられそうになるというシーンがある。楽に生きられるところに行こうとすると、まだまだ非難を受けることも多い。それでも結局は自分で快適に生きられる場所を選んでそこに行くか、その環境を自分が過ごしやすいように変えていくしかない。このセリフに励まされる人も多いだろう。

逃げることと立ち向かうことだと、立ち向かうことの方が称賛されやすい。だけど立ち向かったせいでダメになってしまうくらいだったら、生き延びるために逃げるというのも、また立派な生存戦略である。今いる環境を変えようと一通りの努力をしても変わらなかったのであれば、思い切って別の場所に移るというのは賢明な判断だ。

もうひとつ紹介したい一節がある。

西の魔女が死んだの文庫本には、この話以外にもう1話収録されている。『渡りの一日』という、西の魔女が死んだの後日談のような話だ。西の魔女が死んだ本編で最後の方に出てくる、まいと仲良くなったショウコという友達との日曜日の1日の話である。

この本はどちらかというとオチも含めてちょっと面白い話で、途中、藤沢くんという男の子が勘違いをするシーンがある。まいかショウコが自分のことを好きなのではないかという勘違いなのだが、この後の締めくくりの言葉を気に入っている。

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誤解は人生を彩る。

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真実はいつもひとつのはずだが、そこに対して人の数だけ解釈が生まれる。そして真実は意外とあっけなくて、全然面白くないことだってある。「誤解」というと何かトラブルの火種のように感じてしまうが、誤解が解けて正式な真実があぶり出されたときに、それがあまりにも面白みがなくて興ざめしてしまうのだ。真実はいつもひとつでも、それが嘘や誤解より面白いとは限らないのだ。誤解がなくて真実で舗装された道よりも、誤解も混ざった未舗装路の方が歩いていると楽しく感じるのかもしれない。

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こうしろう

会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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