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一節のお裾分け
第43節
自分を出さずに理解ってもらおうなんて傲慢よ!
【ボーイズ・ラン・ザ・ライオット】
学 慶人 著
今回のお裾分けは、「ボーイズ・ラン・ザ・ライオット」という漫画からの引用だ。この漫画はFTMの高校生である主人公の凌が、服のブランドを立ち上げたい留年生の迅と出会い、服作りをしていくというもの。
スカートを強制させられることに嫌気が差しながらも、中学時代の経験から自分らしく振る舞うことができなくなっていた。そこにやってきた留年生の迅は、ピアスやパーカー、サングラスと派手な格好で学校に来ていた。留年生でただでさえ目立つのに目立っている迅を、かつての自分と同じような「出る杭」であると思った凌は迅を「痛いヤツ」として近づかないようにする。
学校から帰った後、自分の好きな服を着て出かけるのが好きな凌は、たまたま服屋で迅と出会う。同じ服が好きなやつとブランドがやりたかったという迅は凌を熱心に誘う。はじめは暑苦しい迅を嫌がっていた凌も、意外と真っすぐで友達に慕われ、堂々としている迅と友だちになっていく。
いわゆるカミングアウトをできていなかった凌は、迅にはじめて自分の性別のことを打ち明ける。少しずつ2人の仲も深まり、仲間を増やしながらブランド立ち上げに奔走するのだった。
作者もFTMの方で、FTMであれば、ああー、こんなことで悩んでたなぁと思えるような内容が多く出てくる。現役の高校生であれば、今まさに同じようなことで悩んでいるかもしれない。出る杭として打たれることで出ることが怖くなり、引っ込みたくなる気持ちもよく分かる。
一方で今の自分がわかるなぁと思うのは、凌のことよりも凌の周囲の人の「言ってくれなきゃわかるものもわからない」というセリフだ。
初めて凌に性別のことを打ち明けられた迅はこのように言っている。
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言われなきゃわかるワケねーだろが!
俺はお前の痛みも苦しみも知らねェ
一生あっても理解できるワケがねェ
当たり前だ 俺はフツーに男だからな
でも知りたいとは思えるだろ
友達が悩み打ち明けてくれていやなワケねェ
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そして2巻で出てくるYoutuberの翼は、「堂々と普通じゃない自分を出すことで、否定されたり拒絶されても平気なのか」と問う凌に、「自分を出さずに理解ってもらおうなんて傲慢傲慢よ!好きだけどね!そーゆう所♡」と答えている。
その翼に対しても、親戚であり、凌たちのクラスメイトである柏原はこう言っている。
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そりゃ中にはいたずらに傷つけてくるバカいるだろうよ
でもほとんどの人は「嫌い」じゃない
「知らない」んだ 俺みたいに
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私自身も、上手くいっていなかった時期というのは「だれも自分の性別のことを理解してくれないだろう」という思い込みをしていた。でも実際はそんなことはなかった。誰も理解してくれないのであるとすれば、自分の説明が悪いという可能性もある。
私はカミングアウトに2回失敗した。1回目と2回目で失敗したので、もうカミングアウトなんかしないで、体の性別にあった振る舞いができるように自分を躾けて行くしかないと思った。でもいろいろ考えるうちに、「もしかして自分のプレゼンテーションが悪かったんじゃないか?」と思うようになった。
自分のスタンスに問題があったのではないか、そう気がつくと自分の行動は一気に変わっていって、わかりやすく説明する方法が身についた。そして、何人かに受け入れてもらえると、みんながみんな分かってくれなくたって良いと思えるようになった。
自分がつらい状況になると、被害者マインドになってしまう。でもいつまでもそのままではいけない。当事者マインドになって、自分の言動を分析し、そこに責任を持てるようになっていくと少しずつ状況は好転していく。これは何もカミングアウトやセクシャリティとの付き合い方だけではなく、仕事や日常生活全般において言えることなのではないかと思う。
自分をわかってもらうには?いや、そもそも自分が快適に生きていくためには何が必要か?それを考えていけると良いと思う。
ボーイズ・ラン・ザ・ライオットはすでに4巻で完結している。FTMの作者のFTMが主人公の漫画というのは、エッセイ以外にはなかなかないと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。