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一節のお裾分け
第42節
人生が変わるような行動変容を達成するのは、発疹というよりは慢性病の治療に近い。
【自分を変える方法 いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学】
ケイティ・ミルクマン
人の行動にとても興味がある。さらに言えば、行動を改善したり良い習慣を作ったりするための科学にはとてもそそられる。私自身も片付けが苦手なことや、勉強の仕方がわからない、本が読めないという状態を少しずつ改善した経験があるからだろう。そしてタイのNPOで働いているときに、「薬を飲んだほうが良いと頭ではわかっている」にもかかわらず、通院をやめたり薬を飲まなくなったりする人を数多く見てきたこともあり、頭でわかっているだけの状態が如何に脆いかということも知っているからかも知れない。
今回のお裾分けはケイティ・ミルクマンさんの『自分を変える方法 いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの引用だ。本屋で見かけてキラキラした表紙がきれいだなと思って手にとって読んでみた。その場では買わなかったが、あとからどうしても続きが読みたくなって買ったのだった。私はこの手の研究結果をまとめたような本は特に、海外のものを読むことが多い。あらゆるものがそうだが、翻訳されて海を越えてまでやってくるような本はたくさんのお墨付きをもらえているも同然なのだ。つまり良書である確率が非常に高い。人生で読める本は限られているから、できるだけ良書を読めた方がいいと思うのでそういう選び方もしている。
この本の中で勉強になったなと思うのは、ゲーミフィケーションについてだ。あらゆるものをゲーム化することで、楽しく勉強や仕事に取り組めるというものだ。ゲーミフィケーションそのものは私も活用しているし、新しい知識だったわけではない。面白いのは、ゲーミフィケーションがハマるときとハマらないときにどんな違いがあるかという話だ。
本書で紹介されている実験では、営業成績の向上のためにバスケットボールをテーマにした営業のゲームを作り、担当者は企業から販売契約を取り付けると、契約の規模に応じてポイントを獲得した。その他様々な工夫がされたゲームだったが、意外にもゲームへの参加は営業担当者の成績向上にはつながらず、仕事への満足度も高めなかったのである。
それは営業担当者がゲームに完全コミットしていなかったことが原因だった。バスケットボールのゲームを全く馬鹿げていると感じた参加者は、ゲームが導入されると仕事への満足度が下がり、営業成績が少々下がってしまった。結果的にゲームの恩恵を受けたのは、完全にコミットした参加者だけだったのだ。
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従業員が会社によって「義務的なお楽しみ」に強制的に参加させられていると感じれば、ゲーミフィケーションはなんの役にも立たず、かえって逆効果になりかねない。
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これにはなるほどなと思った。ゲームにしてもうまくいかないのは、そのゲームに入り込めてないからだ。どんなゲームも馬鹿馬鹿しいと感じれば楽しくないし、楽しくないなら「ゲーム化して楽しみながら目標達成する」にならないのだ。この他にもフレッシュスタートや誘惑バンドルなど、簡単な工夫で行動変容を起こせる工夫が数多く紹介されている。どのテクニックも高度なものではなく、本当にちょっとした工夫なのだ。
更に最後の章で著者が書いていた「人生が変わるような行動変容を達成するのは、発疹というよりは慢性病の治療に近い。」というのは、行動変容に必要な考え方だろう。1ヶ月や1年そこら、ちょっと手を加えたというだけでは足りないのだ。この本で紹介されているテクニックを「継続的に、あるいは少なくともめざす目標を目指したいと思わなくなるまでの間ずっと使い続ける必要がある」のである。
今年も残すところあと2ヶ月。今のうちにこの本を読んで行動変容の理解を深めれば、2023年の幕開けと同時に(あるいはもっと早く、今年のうちから)素晴らしいスタートが切れるかもしれない。
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。