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​毎週日曜日更新

一節のお裾分け

第40節

神様がそういってくれたらどんなにいいだろう?

【エンジェルエンジェルエンジェル】
梨木香歩著

今回のお裾分けは、梨木香歩さんの「エンジェルエンジェルエンジェル」からの引用だ。この本を初めて読んだのは高校2年生の頃だったと思う。高校の帰り道、今でもそうだが目的もなく本屋に入ることが好きで、ふらふらと書店の中を歩いては、たまに気になった本を買っていた。当時まだそこまで本を読むわけではなかった私は参考書や文房具以外を買って帰ることはあまりなかったのだが、本当になんとなく、エンジェルエンジェルエンジェルの文庫本を手に取ったのだった。

なんと驚いたことに、たまたまその本の主人公の名前が私と同じだったのである。コウシロウになる前の、コウコという珍しい名前の主人公だった。たまたま手に取った本の主人公があまり一般的とは言えない自分と同じ名前であることに縁を感じて、その本を買って帰り、夜寝る前に一気に読んだ。そして私はボロボロと泣きながら、その本を閉じて、すぐにその本の感想文を書きなぐったように記憶している。衝撃的な本だった。

主人公のコウコは当時の私と同じく課題の多い進学校に通う高校生。学校から帰ったらすぐに寝て真夜中から明け方に起きて勉強をする(これは私とは違った)。少し前から父方のおばあちゃんが家にやってきており、コウコの母はおばあちゃんの介護に少し憔悴していた。おばあちゃんは息子のことも孫のことも忘れていたが、コウコの母親のことだけは「ママ」と呼んでいた。熱帯魚を飼いたいコウコは母親に許可を求めるが、生き物を飼うのは大変と一蹴されてしまい取り付く島もない。

物語は主人公のコウコと、少女時代のおばあちゃんである、さわこの視点が交互に繰り返されながら進んでいく。

ある日、夜中に起きると母親がおばあちゃんをトイレに連れて行っており、それを見たコウコはその役を買って出る。母親は感激し、これはコウコの想定外だったが熱帯魚飼育の許可を出す。夜中におばあちゃんをトイレに連れて行きつつ熱帯魚の世話をすると、自分の孫も息子もわからなくなってしまったはずのおばあちゃんが急に覚醒し、コウコを「コウちゃん」と呼び、自分のことをさわちゃんと呼ぶように言う。コウコの前だけでは、少女時代に戻ってしまう祖母との奇妙な関係がはじまる。

タイトルも可愛らしく、出てくるのも少女や天使、熱帯魚なのだが、この本のテーマは「罪への悔恨と赦し」と私は捉えていて、内容は結構ダークかつ、読後にズシンと来るものがある。それもあって高校時代の私は泣いてしまったのだと思う。大人になって読み返してみても、うるっときてしまう。

誰もが一度くらいは、自分の心の黒い部分に嫌気が差したり、その黒いものに抗えずにやらかしてしまったことを強く後悔していたりすると思う。稚拙な自分、コントロールが効かない自分。さわちゃんことおばあちゃんは、少女時代のある出来事がずっと罪の意識として残っていた。

そしてコウコの方はついつい周囲のニーズに合わせてしまい、自分の思ったことを言えないばかりか、他人への攻撃を自分に向けてしまい、自分が傷ついてしまうというこれもまた共感できるような部分だった。

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何といってもいけないのは、やたらに悲観的になったり攻撃的になったりすることだ。しかもその攻撃は、私の場合、ほとんどが結局は自分に向かう。批判の鋭い矢が情け容赦なく内部に突き刺さる。自分で自分の傷を猟奇的に深くして覗き込んでいくような性癖がある。
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さわこにしてもコウコにしても、誰もが考えたことがあるような複雑な胸の内が描かれている。また聖書からの引用も多いため、キリスト教や聖書に詳しい人はより楽しんで読めるかもしれない。



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神様が、そういってくれたら、どんなにいいだろう?
私が、悪かったねぇって。おまえたちを、こんなふうに創ってしまってって

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割りと短い作品ではあるのだが、読み終わると、とても長い話や映画を見た後のような気持ちになる。ズシンと重い上に、作品自体がよくコーディネートされていて、「こことここが繋がってたんだ」というのが次から次に出てきて本当におもしろい。この小説はおすすめの小説を教えて欲しいと言われたら、必ず名前を挙げる作品の一つである。

自分の名前にあまり感謝したことはないが、少なくともこの作品と出会わせてくれたのは昔の名前のおかげだった。さわこやコウコに共感できそうだと思った方は、是非読んでみてほしい。

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こうしろう

会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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