毎週日曜日更新
一節のお裾分け
第39節
人は美しいものに心惹かれてしまう生き物だから
【ブスなんて言わないで】
とあるアラ子著
今回のお裾分けはとあるアラ子さんの「ブスなんて言わないで」からの引用だ。初めての漫画からのお裾分けである。なかなか強烈なタイトルのこの漫画は、ルッキズム(外見に基づく差別や偏見)をテーマとしており、かなり考えさせられる内容だった。
主人公の山井知子は、高校時代にブスだからという理由でいじめられていた。その影響で33歳となった今も極力顔を隠して生活し、高校卒業後は1人で上京して仕事もなるべく他人と顔を合わせなくていいバイトを選んで働いている。時給は最低賃金でカツカツの生活、友達もいなくて寂しいが、これが私の選んだ人生と割り切って淡々とした暮らしを営んでいた。
そんな苦しい暮らしの中にも希望があった。「ルッキズム」という言葉が広がり、「人を見た目で判断する価値観」にNOが突きつけられる時代になってきたことで、ようやく自分のトラウマにも前向きに向き合い始めていた。
そんなある日、高校時代のいじめの首謀者であった白根梨花がルッキズムについて語っているのを立ち読みした雑誌で見てしまう。家に戻って検索をすると白根梨花が美容研究家として成功し、反ルッキズムの活動家として講演や執筆をしていることがわかった。
ブスであるという理由で自分を傷つけた本人が反ルッキズムを語り、自分に自信を持つように説く姿に怒りを覚えた知子は、梨花に復讐するために彼女を殺そうと決意して事務所に乗り込む。梨花の考え方に同意できないことを伝えた上で刃物を振り回す知子。しかし梨花は動じることなく、知子をアルバイト採用すると伝える。
結局のところ梨花は梨花で「美人である」ということで思わぬ好意を向けられたり、トラブルに巻き込まれてしまったり、勘違いをされるという苦しみを味わって生きてきていたのだった。
内容としてはこんな感じだ。知子や梨花以外にも、ブスを自虐ネタにしてきたお笑い芸人の葛藤や、低身長をからかわれてきた男性、元摂食障害のプラスサイズモデルなど、ルッキズムによって葛藤する様々なキャラクターが登場する。
私はプラスサイズモデルやボディポジティブという言葉やその辺りの事情などをあまり理解していなかったので、この漫画を読んでから改めて調べてみた。確かに最近はお笑いでもブスネタやジェンダーに関するネタなどは取り扱われなくなってきている。
私自身は割りと、低身長もブスも性別のこともネタにして生きてきたタイプなので、自分の考え方もアップデートしていかないといけないんだろうなということは理解している。その一方で、それを自虐したりネタにしたり、人を笑わせる材料にすることを手のひら返しのように全て否定されることに対してのモヤモヤも感じていたので、その辺を上手く漫画にしてくれている作品だなと思った。
はるな愛さんとたかまつななさんのYoutubeの動画で、ブスいじりやハゲいじりなどで楽になっている人もいると思うが、「傷ついている人もいる」と言われるとどうしても言いづらくなるという話があった。
https://www.youtube.com/watch?v=3NdqPhMgUGY
自分の居心地の悪さや辛さを昇華することで乗り越えてきたことを、なんとなく否定されているような気がするのは私も感じていた。とは言え反ルッキズムというものがなかなか大きく浸透していかないような気もしている。
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社会は変わらない
だって人は美しいものに心惹かれてしまう生き物だから
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美しい人と美しくない人、どっちが辛いかを天秤にかけたって、どうしようもないと思う。だけど「見た目」という課題は誰もが避けて通れないものでもある。そんな大きくセンシティブなテーマをとても解像度高く漫画にしているこの作品は非情に面白かった。まだ完結はしていないので続きが気になる。読みやすいので是非色んな人に読んでみてほしい漫画だ。
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。