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一節のお裾分け
第29節
肩書も所属も関係なく、身一つで現場に放り込まれても、変化を生める人間になる
【職業は武装解除 瀬谷ルミ子】
皆さんはどんな肩書きを持っているだろうか。私は会社員であり、職種を答えるならマーケターということになる。もっと細かくいえば、人材紹介事業部のマーケティング担当者だ。元NPO職員なども肩書きになるかもしれない。講義をしに行く時にはLGBT当事者という大きな枠の肩書きがつくこともある。
肩書きの力は強く、時に自分を自分の実力以上に見せることができる。ある意味判断力を鈍らせるものとも言えるかもしれない。悪い言い方をすればその肩書きに騙されて、実力以上に人を評価したこともある。いわゆるハロー効果というものだ。そして後光に目が眩んで人を勝手にジャッジして、勝手に失望するのだから、その人からしたら傍迷惑な話かもしれない。だが、世の中には意図的にそのような目眩しを使う人がいるというのもよく知っている。
今回のお裾分けは、瀬谷ルミ子さんの「職業は武装解除」からの引用である。高校生の頃から国際協力の仕事に興味があった私が、大学生の頃に出版された本だ。もう11年前の本である。大学のサークル室に寄贈してしまったので、今回これを書くにあたって改めてKindleで購入してみた。
瀬谷ルミ子さんはこの本が出た当時32歳で、その若さで中東やアフリカの紛争地帯に赴き、兵士の武装解除を担う専門家だった。以前、山本敏晴さんの「国際協力師になるために」という本を紹介したが、その本と並んで私の価値観に大きく影響した本と言える。
瀬谷さんがアフガニスタンやソマリアで武装解除の仕事をどんな風に成し遂げたか、どのように交渉をしているのかといった内容に感銘を受けたものの、その詳細を思い出すことはできない。それでも確実に私の心に刻み込まれているのが、次の一節だ。
「肩書も所属も関係なく、身一つで現場に放り込まれても、変化を生める人間になる」
この言葉が20歳そこそこの私をどれほどシビれさせたことか。
それから私は、自分もそんな人間になりたいと思い、度々この言葉を引用させてもらいながら、周りの人に「そういう人になりたいんだ」と言うようになった。
親戚のおばさんには「立派なことだけど、やっぱりそれは難しいことだと思うよ」と言われたこともよく覚えている。それでも私は、この言葉を心の中で唱え続けた。そして今も唱え続けている。一組織の中でしか通用しない力よりも、どこにいっても通用する力をつけたいと、常に思っている。
改めてこの前後の文章を読んでみた。瀬戸さんが20歳の時に初めてルワンダを訪れた時を振り返ってのシーンだった。
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要は、若造の私には、彼らの問題を解決するスキルが何もなかったのだ。好奇心だけで人々の心の中を土足で踏み荒らした挙げ句、「良いことをした」と自己満足して帰国しようとしていた。もし本気で現地の人々の抱える問題の解決に貢献したいなら、そのための技術や経験が必要だという当たり前のことに、私はこのときようやく気づいたのだった。
「肩書も所属も関係なく、身一つで現場に放り込まれても、変化を生める人間になる」
ルワンダを訪れた二十歳のときに強く感じたこの思いが、私の仕事の目標になった。
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この本を書いた瀬谷さんは32歳。今の私と2歳しか変わらない。2年後の自分がそのような影響力を持っているとも思えない。
立派な肩書きがあると、きっと人は安心できる。自分というものを端的に表し、なおかつ権力もまとった肩書きならなおさらだ。だけどそれは本質的ではない。大切なことは何者かを語ってくれる肩書きではなく、身一つで放り込まれても変化を生み出せる技術や経験であり、常に肩書きに安心してはいけないのだ。
昔の自分を奮い立たせた本を読んで、私もまた頑張ろうと思った。2年後に当時の瀬谷さんに追いつけなくても、時間がかかったとしても、自分が解決したい問題に対して、変化を生める人間になりたい。
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。