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一節のお裾分け

第28節

「変わりたい」と思うだけで変われるとも限りません。

【解】
加藤智大 著

2022年7月8日にとてもセンセーショナルな事件が起きた。安倍元首相が奈良県での選挙演説中に襲撃され、殺されてしまった。襲撃されて死亡した首相と言うと、原敬や犬養毅が思い浮かぶ。「歴史上の出来事みたいな話」が、今この令和に起こることを、みんなあまり想像していなかったのではないだろうか。

私は個人的に、常軌を逸していると思われるような殺人を起こす人に昔から強い興味がある。名前をあげれば何名かスラスラと言えるくらいには、この手の話に関心を持ってきた。今回も容疑者の心理状態やどうして犯行に至ったかというその背景が、非常に気になっている。何が彼を追い詰め、その行動を取らせたのか…。

今回のお裾分けは、加藤智大氏の「解」からである。加藤智大氏は、2008年6月8日に起こった秋葉原通り魔事件の犯人であり、死刑が確定した死刑囚でもある。最近たまたまこの本を見かけて購入したのだが、奇しくも私がこの本を受け取ったのは6月8日だった。

この本では彼がどのようなつもりで犯行に及んだのか、彼視点で書かれている。

「あの日私が何をしたのかを一言でまとめるなら、大事件を利用してなりすましらを心理的に攻撃した、となります」

この記述だけ読むと、なんのことなのかさっぱり分からない。

加藤氏は昔から、間違った考えを無理矢理にでも改めさせたり、制裁を加えたりしようとするきらいがあった。そして沸点も低かった。考え事をしているときにちょっかいを出してきた人を殴ったり、電話対応でキレて受話器を壊したりといった具合だ(受話器の件はネットニュースに、彼の元同僚の発言として記述があった)。

加藤氏は、この本を読む限り人との繋がりを強く求める性格のようだった。昔からの友人のためなら時間もお金もいとわない。その事によって、友人を繋ぎ止めるかのように。

そして彼は、寂しさを紛らわせるために掲示板に入れ込むようになっていく。いつものように掲示板サイトを利用して交流をする中で、彼のなりすましが現れる。

そこで彼は「なりすましの間違った考えを改めさせる」ための方法を考える。顔も名前も、どこに住んでいる何者なのかもわからない「なりすまし」に分からせるためには、大きな事件を起こす必要があった。それが、彼が7人を殺し、10人に重軽傷を負わせた動機なのである。

そして興味深かったのは、無差別殺人が起こった時によく見かける「仕事がうまくいかずむしゃくしゃしていた、殺すのは誰でも良かった」という供述についてのものだ。

「供述した」とは、「供述書が作成された」ということであり、そっくりそのままの内容を容疑者が話したというわけではないという。取調官から「誰でも良かったのか?」と聞かれ、「はい」と答えると、あたかも彼が「誰でもいいから殺したかった」と発言したかのように供述書が書かれる。そしてその供述書の内容が各方面で、「供述した」と報道され、視聴者である我々はそれをそのまま受け取ってしまう。

この本を読む限り、少なくともこの本を書いている時点では、過去の考え方の過ちを理解し、自分を変えていこうとする彼の姿勢が垣間見える。
彼は「反省とは、悪いことをした、もうそれをしないように思うことで終わりではなく、その上で原因を特定し、対策をするところまでを言うのではないか」と、自分なりの反省のあり方を考えている。

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「やめたい」と思わなければやめられませんが、「やめたい」と思うだけでやめられるとは限りません。

「変わりたい」と思わなければ変われませんが、「変わりたい」と思うだけでやめられるとは限りません。

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彼のやったことは決して許されることではない。

だが、彼は自分なりに、過去を「反省」し、自分の思考回路や行動原理を特定しようとしていた。「秋葉原の通り魔」というなんとなくのイメージしかなかった彼の、ネットニュースやウィキペディアだけを読んでもわからない部分を少し理解できた気がする。

冒頭の安倍元首相を襲撃、殺害した容疑者の「供述」もこれからどんどん出てくるだろう。何を思い、どうしてそこに至ったのか、彼についても知っていきたいと思う。

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こうしろう

会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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