毎週日曜日更新
一節のお裾分け
第25節
挫折するのは、やらないことを決めないから。
【世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた】
中野信子
今回のお裾分けは、脳科学者の中野信子先生の『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』からである。中野先生の本は結構紹介してしまっているが、この本は先生の本の中でもかなり売れているのか、発売からしばらくたった今でも本屋で平積みされたり、売れた本のランキングの上位に入っているようなので、手にとって読んでみた。流行りにはつい懐疑的になってしまうが、何度も見ているとどうしても読みたくなってくるし、実際に流行っているのにはそれなりの理由があるはずだ。その理由を知りたかったというのも動機である。
売れている理由としては、最近流行りの「1冊にまとめてみた」というタイトルや、先生の本としては比較的万人向けかつ読みやすい本であることが挙げられるだろう。
この本に出てくる多くのアドバイスは、中野先生が近くにいる実在の人物をよく観察したり、それによって得た洞察を論文などの情報に照らし合わせたりして解説したものである。よって実生活での活かし方を元に実行に移しやすく、かつ科学的根拠もあるため確信をもって実行できるのである。
私が特に肝に銘じたいと思ったのが、今回のタイトルにもしてある「挫折するのは、やらないことを決めないから」である。皆さんは仕事をするときやなにか計画をたてるときに、やることリストを作るだろうか?私はやることを書き出しておかないと簡単に忘れたりすっぽかしたりしてしまうので、毎日のようにリスト化したり、スケジュールとして予め全て組み込むようにしている。しかし、更に大切なのは「やらないこともリスト化しておく」ということなのだという。
例えば何か目標を立てたときに、それを達成するために「やったほうが良いこと」というのはいくらでもある。資格の勉強をするなら参考書を一通り1回解く、過去問を解く、一緒に勉強するための仲間を見つける、様々な問題に対応できるようにもう1冊さらにレベルの高い参考書を使ってみる、周りに資格をとることを公言し、落ちてしまったときのペナルティを用意しておく…などなど、挙げたらキリがないのではないだろうか?
実際には確実に上記の全てがマストでやるべきことではない。勉強するための仲間を見つけることや、もう1冊参考書を用意して解くことよりも、まずは1冊を一通り解くことや、過去問を解くことの方が、試験に受かるには重要であることは分かるだろう。また、勉強をしようと思っていてもついダラダラスマホを触ったり、テレビを見たりと、資格取得のプラスにならない行動をしてしまうかもしれない。そうしたこともまとめて、「やらないこと」として予め決めておくべきなのだという。やった方が良いことはいくらでもあるので、それらに目移りしたり、多すぎる「やった方が良いこと」を全て「やるべきこと」にしてしまったために挫折をしてしまうのである。耳が痛い話だった。
更にこの本の中で共感したのは、「生きる指針も友となる人物も、本の中では必ず出会える」というものである。先生の知人であるイタリア系ユダヤ人のSさんは、爵位を持つ身でありながら、子供の頃に両親を失い、養父母の元で少年時代を過ごしたという。貴族である身の子供が継ぐべきものを狙う大人はたくさんいて、そこで身を守るのは非常に過酷だった。
Sさんは学生時代に、養父母の実子からとある事件の濡れ衣を着せられてしまう。そして治安の良くない別の学校に転校させられてしまい、養父母の権威を恐れた学校からも守ってもらえなかった。しかし、彼が学校を去ろうとするときに、彼の才能を認めていた1人の教師がこんなアドバイスをした。
「これから君は、いい教師に恵まれる可能性は少ないだろう。1人で悩みを抱えながら過ごすことになるかもしれない。しかし誰にも教えてもらうことができなくても、世界には多くの本がある。これからは本が、君の先生だよ。どの科目を選ぶのかも、どの先生に教えてもらうかも、君の自由だ」
それを聞いてSさんは胸が熱くなり、「誰も味方がいないのであれば、まず本を味方にして、自分に力をつけていこう。」そう思ったという。
この連載も25回目だが、ネタが尽きることはない。私も本は週に2,3冊読んでいて、何人もの先生が毎週たくさんの新しいことを私に教えてくれる。Sさんの先生のセリフもまた、私に本を読む意義を再確認させてくれた。ハウツー本ではあるものの、たくさんの実在の人物が中野先生を通じて私にいろんなことを教えてくれる良書だった
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。