毎週日曜日更新
一節のお裾分け
第24節
だから探すのよ、"無痛"でいられる状態を。
【幸福幻想】中村うさぎ・マツコ・デラックス
今回のお裾分けはマツコ・デラックスさんと中村うさぎさんの「幸福幻想」からである。「サンデー毎日」という雑誌で連載されている人生相談をまとめた本で、人生相談への回答が二人の対話形式でまとめられている。過去にもマツコ・デラックスさんや中村うさぎさんの本は紹介したことがあったかもしれないが、この本は比較的新しく、2022年2月に出た本で、「お!」と思うセリフが合ったので紹介させてほしい。
この二人の本ではしばしば、「欲望」がテーマとなる。特に中村うさぎさんは整形をしまくったり、買い物依存症になったり、デリヘルをやってみたりとなかなか破天荒なことをしている。その行動をとらせる「欲望」が何なのか?よく話題になるのである。
そんな二人に、「整形してもかわいくなれなかったことがショックで、夢も希望もなくなってしまった」というお悩みが届く。
うさぎさんは、整形をすればかわいくなれるという。ただしお金はものすごくかかるし、1箇所だけではダメで、すべてを変えるくらいの整形が必要なこともあるという。だが、整形にしろメークにしろ、自分が納得できるかどうかじゃないかとマツコさんは言う。だから整形以外のことにも色々と挑戦してみたらどうかと答える。
そして面白いのはここからだ。うさぎさんは「整形しても人生が変わらないのは私が生き証人」とし、そもそも整形は、美しくかわいくなり、モテモテになって幸せになるという旅ではないと言う。痩せれば幸せになれるとか、痩せたら若い頃のようにきれいになれるとか思う人は多いが、そうはならない。それなのにどうして「痩せたら幸せになれる」とか、「整形したら人生が変わる」とか思ってしまうかというと、もともとの自分をすごく嫌っているからだという。でもなぜ自分が嫌いなのかを直視しないから、体重や顔のせいにしてしまうのである。
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うさぎ「ブランド物を買いまくったり、ホストに入れあげたり、整形しまくったり、デリヘルで働いたりといろんなことをやった結果、私は私で変わらないし、人生も変わらないということを、私は身をもって知った。整形で幸せにはなれなかったけど、学んだことはいっぱいある。相談者さんにも、整形とはそういうものだと思ってほしいよね、うん。以上!」
マツコ「あはははは!でもそれって真理よね。相談者さんは、整形さえしたらそれで素敵な何かが目の前に現れると思っていたかもしれないけど、それはないの。だから探すのよ、"無痛"でいられる状態を。例えばアタシたちにとってのそれは、開き直るってことなのよね」
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この「"無痛"でいられる状態を探す」というのはとてもしっくりきた。FTMがトランスしていく過程も、これに近いものを感じるからだ。
カミングアウトをするのか、埋没して暮らすのか。手術をするのか、ホルモン治療だけにするのか、はたまた治療はなにもしないのか。筋トレをして男らしい身体を手に入れるのか、男性としてバリバリ働いて社会的な地位を上げるのか。
どの方法を取ることで「"無痛"でいられる状態」を作れるかは人によって異なる。それに、「"無痛"でいられる状態」を作れたと思っても、ある日痛みを感じるようなことも往々にしてある。
「なぜ自分が嫌いなのかを直視しないから、体重や顔のせいにしてしまう」というのも同じような現象がある。自分が嫌いな理由を性別のせいにしていると、本質的なことを見失ってしまう。本当は性別のせいではなく、コミュニケーション能力や、性格面の問題であることも少なくはない。だから「性別のことに悩んでいて、そのことばかり考えている」と言う人には、「性別のせいで困っている出来事を全て書き出してみて、それが本当に性別のせいかどうかを一回よく考えてみましょう」とオススメしている。
本質を考えることで「"無痛"でいられる状態」に近づく方法は少しずつ分かるはず。ホルモン治療や手術では人生は変わらないこともあると、期待値は下げたほうが良いかもしれない。
こうしろう
会社員・ライター・kamenotsuno.com運営
1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。
好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。