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一節のお裾分け
第23節
自分で意識している魅力なんて底の浅いものよ。
【娼年】
石田衣良
今回のお裾分けは、石田衣良さんの「娼年」からの引用だ。最近ブラブラと古本屋を歩いて、何冊かの本をまとめ買いしたときに、この本も買った。
この本自体は2004年に出版されており、2018年には映画化もされている。私はこの本の存在自体は知っていたが、映画化はちょうど日本にいない時期だったので知らなかった。読み終わって、「すごく面白い本だったから他の人の感想を読んでみたい」と思って検索したときに、松坂桃李さん主演で映画化されていることを知ったのだった。近いうちに必ず見ようと思っている。
20歳のリョウは、大学生活にも恋愛にも退屈して、アルバイトと大学での生活以外は漫然と過ごしていた。あらゆるものに興味が持てず、「女なんてつまらない」と言うリョウ。バイト先のバーに現れた御堂静香(みどうしずか)は、退屈そうなリョウに「あなたのセックスに値段をつけてあげる」と言う。興味を持ったリョウは御堂静香に着いていき、その先で試され、会員制のボーイズクラブで「娼夫」として働くことになる。
話の構成としては、女もセックスもつまらないと言っていたリョウが、娼夫としての仕事を通じて女性やセックスに魅せられながら、仕事にのめり込んでいくという流れになっている。その中でリョウ自身の心境に変化が起こったり、様々なことに気付いたりしていく過程や、女性たちの様々な欲望の形も面白いのだが、細かい情景描写やセリフが印象深かった。
中でも私が好きだったのは、初の娼夫仕事が決まるも、周囲の評価とは裏腹に、具体的にどうすればよいのかと不安になるリョウに御堂静香が言ったこのセリフだ。
「きれいな顔や上手なセックスだけが、女を惹きつけるとでも思ってるの?あなたのいつも難しそうな顔をして悩んでいるところも、他の人から見ると魅力的だったりする。自分で意識してる魅力なんて底の浅いものよ。がんばってらっしゃい。たとえ今回失敗しても、まだまだ仕事はある」
この、「自分で意識してる魅力なんて底の浅いもの」というのは言い得て妙だと思った。多くの人はこれまでの中で「あなたの長所と短所」みたいなものに回答しなければならないシーンがあったと思う。そこで、自他ともに認める長所と短所をズバリ回答することができる人が、どれくらいいるだろうか。人に教えてもらったものでない場合、その回答の質は低いことが多い。
大体の人が語る自分の長所と短所は、幾ばくかの「そうありたいと願う姿」や、「本来こうであってはならないが、後ろめたく思っている部分」が多少デフォルメされたような、普段からその人が良くも悪くも意識しているものであることが多い。そういった意味で、自分で意識している魅力は底が浅いのだ。そこには客観性がなく、恣意的な判断が混じっている。そして周りは思ったほど、それを気にしていないこともある。
一方で、その人の本当の魅力は自分では気が付かないことが多い。自分にとってはそれがあまりにもありふれているからだ。さらに、自分では良しとしていない部分が、他人にとっては非常に魅力的に映っていることも少なくはない。当の本人はその「良しとしていない部分」でひどい目にあったり、損をしたりしていることもあるので、その要素を「良い」とはとても思えない場合もあるだろう。
自分で内側から見た長所と、他人が外側から見た長所。そのどちらかのみが本物ということはないが、万人が共感するのはやはり他人が外側から見た長所だ。より多くの人がYesと言うものが真実に近いとするならば、やはりより多くの目にジャッジされた外側からの魅力が真実とも言えるかもしれない。
若いうちは他人が言う自分の魅力に照れてしまったり、ときには反発して反論したくなったりするかもしれない。でも私は「自分のことは自分が一番わかっていない」派なので、少し気持ち悪いかもしれないが、自分の魅力について時々、他人に尋ねてみようと思う。