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​毎週日曜日更新

一節のお裾分け

第22節

愛は人を救うどころか、それに異を唱える者を徹底的に排除しようという動機を強力に裏打ちする

【シャーデンフロイデ 〜他人を引きずり落とす快感〜】
中野 信子

愛と正義が「人間性」の賜物などではなく、体内で分泌される物質への反応にすぎないと言われたら、あなたはどう思うだろうか。そもそも「人間性」とは何なのだろうか。

今回は中野信子さんの「シャーデンフロイデ」からお裾分けする。中野さんの本は何冊か読んでいるが、どの本も不可解な人間の行動を科学的に解説しつつも、歴史的な出来事や倫理、哲学などにも絡めた非常に面白い本ばかりである。
私が脳科学の本を好んで読み始めたきっかけは、池谷裕二さんと中村うさぎさんの「脳はこんなに悩ましい」という本だ。この本についてもいつかお裾分けをしたい。

以前この連載の中では、ジェーンスーさんの「私がおばさんになったよ」という対談集の中から、中野さんとスーさんが「生きる目的、モチベーション」の話をしている内容を共有した。

今回の紹介する本のタイトルともなっている「シャーデンフロイデ」は、他人を引きずり下ろした時に生まれる快感のことである。直訳に該当する日本語はないのかもしれないが、日本語で言う「他人の不幸は蜜の味」的な感情を意味する。

例えば仕事もうまくいっていて、お金も稼ぎ、美人で性格も良い奥様がいて、とても幸せな人がいるとする。そんな人がどうやら不幸な目に遭ったらしいと聞くと、人間は快感を覚える。それは恥ずかしい感情かもしれないが、確かに人間が持っている感情なのだ。これを読んでいるあなたが「そんなことはない」と頭では否定していても、人間の機能として確かに備わっている。ドイツ語でシャーデンは損害、毒を意味し、フロイデは喜びを意味する。

本書ではそのシャーデンフロイデから、不謹慎狩りや承認欲求、バカッター、毒親(支配的な母親)など、多岐にわたる話題に触れている。

この感情が人間にあることは、それこそ「脳はこんなに悩ましい」を読んで知っていた。ただなんとなくしか分かっていなかったので、興味を持ってこの本を読んでみたのである。

このシャーデンフロイデはオキシトシンという物質と大いに関係がある。オキシトシンは俗に愛情ホルモンや幸せホルモンと呼ばれ、幸福感や、仲間を大切にしたいという気持ちを湧き上がらせる。ところが、オキシトシンは「妬み」の感情も強めてしまうことが分かってきたのだという。

この「オキシトシン」と「妬み」について知った時に、私はあることに合点がいったように感じた。それは「国際協力」や「動物愛護」に関心が高い人が、時に異常なまでに攻撃的になることだ。私は兼ねてからそれが不思議でならなかった。

遠くの国の貧しい子供たちや悲惨な現実に敏感に反応し、自らの人生を使って問題解決に取り組もうとする人が、なぜその問題に関心がないという理由だけで、他者をこんなにも強く批判するのだろう。

動物愛護に関心が高く、菜食主義を貫こうとベジタリアンになった知り合いがいた。Facebookで異常なまでの肉食に対するヘイトをしている姿を見て、その動物への深い愛情と肉を食べる者への強烈すぎる攻撃性が同居していることに驚いたこともある。

でも、それらは全く不思議なことではなかったのだ。愛が深ければ深いほど、その愛への裏切りは強い憎しみになる。「愛」という一見素晴らしい感情にも、ネガティブな側面があるのだと中野先生は言う。

読み終わった後に改めて「はじめに」を読むと、「愛」というものへの期待をもっと下げた方が良いのかもしれないと思う。

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愛は人を救うどころか、それに異を唱える者を徹底的に排除しようという動機を強力に裏打ちする、危険な情動です。

ですが、だからこそ甘美で、忘れがたい。生々しく、あたたかい。そのためになら、死んでもいいとさえ思う。いつでもヒトは、それを求めてしまう生き物なのかもしれません。理性でコントロールされた生き方をするのか、それを知ってもなお、愛に生きるのか。

決めるのは、あなたです。

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強い正義感や愛が、そこに反するものを強烈に傷つけようとする。
それが本能的なものであることを知っているだけでも、理性を保てるような気がする。

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こうしろう

​会社員・ライター・kamenotsuno.com運営

1992年 鹿児島生まれ。青年海外協力隊に従事するなど、ユニークな経歴の持ち主。自身のサイトkamenotsuno.comを中心に、you tubeにてカメのつのチャンネルの配信やno poleの第二期メンバー等、FtMに関する諸問題について、精力的に活動を行なっている。

好きなものは、カメとノート、カレー、黄緑色のもの、などなど。

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