Acerca de
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第3回
誰よりも、考え続ける
こうしろうさん (29) FtM
(全4回)
2014年からkamenotsuno.comを開設し、自身の経験に基づいた多くの発信をしてきたこうしろう(@Ksr_5463_)さん。大学卒業後は、国際協力のためタイ・チェンライ県に。帰国されてからは、会社員として勤務されているユニークな経歴の持ち主です。自分の人生を主体的に生きる事を胸に、彼はどのような社会人人生を歩んで来たのか。その裏には、幼い頃から考えて続けてきた「国際協力」への情熱と何事にも真摯に向き合う彼の誠実な道のりがありました。
01 - 1 そもそも就活出来るんだっけ?
- 「正規の就活」から逃げ出した
- 1社だけのエントリー
01 - 2 トランスを進めるよりも大切なこと
- 国際協力のためタイ・チェンライへ
- 寛容性のタイ・日本におけるパス度
01 - 3 2枚の履歴書
- 就活アゲイン
- やっぱり嘘がつけない!
01 - 4 カミングアウトはプレゼンテーション
- 思ったよりも大丈夫
- その名の意味
第三回 2枚の履歴書
【就活アゲイン 】
タイでの任期終了が迫って来た時、あらたに日本での就活に向けて動きを始めた。長期的な目標は「専門性を活かして世界のどこでも働けるようになること」大学院進学・研究機関・NGO/NPOへの就職も視野に入れつつ、自身と向き合った。
自分がどうしても働いてみたいと思えた会社に対して、人事に直接メールを送った。
・現在は国際協力のため、海外にいること
・2019年1月に帰国するのでその年の4月から働き始めたいこと
・どうしてその会社が気になるのか
などを要点に、セクシャリティーも早い段階で打ち明けた。
「不安は…ありましたよ。でも、『話して否定されるくらいなら、それは時代遅れの会社である』と言う判断基準をすでに持っていました。そのフィルターは、(LGBTQではない)他の人が持ち得ないものです。その目線があるからこそ、会社選びも明確に出来る部分はあると思います。だって、無駄ですもんね、最初の段階でわかるのならば、それで止めたらいい」
エントリーシートも様々な人に見てもらった。
色々な意見を総合し、自身で判断する。
その結果、メールを送った企業から2団体とも返信を受け取ることが出来た。
帰国して、実家に帰省したのちに、本格的に就職活動を行った。
自身の経歴と興味をもとに、国際協力や開発コンサルタントなど条件を絞り、関連した企業が集まりやすい関東圏に狙いを定めた。
その一方で、自身が転職活動において「市場価値が低い」ことも認識していた。一般的な社会人経験がなく、その基礎を叩き込まれているはずの2年間を国際協力に捧げたからだ。30歳手前で未経験の自分を教育するようなコストをかけてくれる会社は多くはないだろうと予想していた。
そして、自身の希望する道のりを冷静に判断すると、足りないものも見えて来た。
・就業経験
・心理学の知識や資格
・統計/データ分析の知識や資格
これらを踏まえて、再度エントリーする会社を決めていった。
就職活動は、思った以上に難航した。
どんな場面でも、合理的に考え行動に移していく、こうしろさんは変わらない。
「就活で上手くいかなかった時は、寝たり、散歩したり。気分転換に終始していましたね。ハウツー本は読みませんでした。新卒じゃないし、ちょっと特殊な経歴なので役立たないと思って」
「でも、既卒では遅すぎる自分、を突きつけられたので、しんどい年ではありました。モチベーションは、当時のガールフレンドとお金を稼げる、と言うことでしたね」
いつも真剣なこうしろうさんも、この時だけは、少し照れたように見えた。
【やっぱり嘘がつけない!】
その中で出会った現在の会社を選んだ理由について、困ったような顔をしてこう答えてくれた。
「志望動機がなくて良かったからです。やっぱり、この時も嘘をでっち上げることが出来ませんでした」
こうしろうさんにとっては、カミングアウトするよりも嘘をつくことの方が苦痛ということなのだろうか。
「はい、そうです」
こんなにはっきりとした肯定文を、私はいつぶりに聞いただろうか。
「本当のことが言えないと、相手との距離が縮まりにくいです。話のつじつまが合わない時、自分も相手も苦しい。」
「『上手くやるための努力』のコストがかかり過ぎると思いました。」
この時、こうしろうさんは、履歴書を2枚持っていた。
通称名と本名の書かれたものだ。
内々定が出たタイミングで、本名と戸籍上の性別を書いた履歴書を提示し、「戸籍上は女性だが、男性としての就業を望んでいる」と続けた。
会社側は、検討すると回答したが、すぐにそのまま内定が出た。
その時の採用者から、後々聞いた話がある。
「採用面接時にも「良い経験を沢山しているね」と言われたのですが、その後に話したら「すごく考えてるなと。とても印象的な面接だった」と明かしてくれました。その方が印象的だった面接は、今まで2回あったそうで、そのうちの1人は彼の部下として勤務している方だそうです」
そのうちの1人が自分なんです、と言わないことが彼らしいと思った。自身が働くことの意義を本当に大切にしている。控えめだけれど、その芯は欅の幹のように硬く太いものだった。